インタビュー

ブラジル人が日本で漫画家になったワケ

(聞き手:安齋道浩 @WEDGE Infinity編集部)
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マンガで神話をアップデート

東京を拠点に活動するブラジル人アーティスト、モクタン・アンジェロは、マンガの形式を用いて古典的な物語を現代によみがえらせている。

(聞き手:ロベルト・マクスウェル)

 

マンガに対する極端な偏見があるが、それは時が経っても変わらないようだ。日本では、今でもマンガを読む事を禁じている学校がある。しかしながら、多くの人々が知る由もないのは、アーティストがどれだけの労力を使ってそれらの物語を生み出しているかということだ。これらの物語が多くの人に好まれるようになったのには、それだけの理由がある。それは、マンガの多くが、人類の歴史と同様に古くから存在する神話や伝説に強く影響を受けているからなのだ。

ブラジル出身のアンジェロ・モクタンの作品でも、それはほとんど変わらない。ブラジルと日本でアニメーション映画の制作について学んだモクタンは、勤勉な作家だ。彼の目標は、読み手の人間としての成長に寄与する作品を生み出すことにある。三部作『昔々東京で…』の第一作目である『あかずきんちゃん』をリリースしニューヨークから戻ったばかりの彼は、古典的な物語を再考し、舞台を現代日本の首都に置き換える作業を行っている。ブラジルの伝説を基にした『イアラ』と、日本の昔話の改作である『浦島太郎』の出版を控えた彼に、オルタナティーヴァ・マガジンのリポーターは話を聞いた。

 

いつ頃からどのようにして、自分自身の絵が描けることに気づいたのですか?

その具体的な時期を正確に示すのは難しいですね。誰でも子供のころに絵を描きますが、写実的に描けなかったり等のフラストレーションから10代でやめてしまったりする。僕の場合は、ただやめなかっただけです。欧米文化に広く共通して見られる独創的な原作者であることへの誇張された崇拝にもかかわらず、人間は今だ本質的に他の作品の複写や模倣を通じて学んでいる。僕の場合も例外ではありません。この模倣の段階から、今の僕の、創作したり描いたりするために外面を探るというより内にあるものを探し求める、という段階への漸次的推移というものがあったように思います。とは言え、間違いなくファイン・アートやアニメーションを学んだ大学での6年間が、現在の僕のスタイルの形成に大きく関わっていることは認めざるを得ません。

 

あなたの作品に一貫して受けてきた、または受けている影響は何でしょうか?

僕の好きな作家は、アニメーションでは宮崎駿、マンガでは松本大洋です。でも彼らのスタイルを真似ているわけではありません。宮崎氏が教えてくれるのは、豊かな詩情と、年齢や性別、国籍などを超えて幅広い人々から高く評価される奥深さです。一方、松本氏からは、その描写の自由さに触発されます。彼のストーリーも大変奥深く、そして素晴らしく洗練された芸術的センスが備わっています。僕は絵を描いている時はいつも音楽を聴いているので、さまざまな作曲家にも影響を受けています。クラッシック音楽ではベートーベンなど、現代音楽ではミニマリストのフィリップ・グラスや、クラシックと民族音楽の融合が素晴らしいヒュー・ド・クーソンなどです。

 

アニメーターとしての作品と漫画家としての作品との違いは何ですか?

アニメーションとマンガには様々な技術的違いがありますが、僕にとってのゴールはどちらも同じで、人々には自ら想像する以上の能力がある、という事を思い出させる物語を再び語ることです。現実的な理由で最近はマンガ作品の制作を主に行っていますが、将来的にはより多くの制作費と人員を確保してアニメーション制作に戻りたいと考えています。

 

「 昔々東京で…」のアイディアはどこから来たのですか?

神話や伝説、童話には、数多くの奥深い教訓と表象が散りばめられています。しかしながら、それらは我々の物質主義的文化の中で重要性を与えられないが故に、しばしば誤解されています。僕は『千の顔を持つ英雄』の作者であり、『スター・ウォーズ』の制作の時にジョージ・ルーカスの神話的事項についての顧問だった神話学者ジョーゼフ・キャンベルを大変尊敬しています。彼は、平易で深淵な言葉を用いて、これらの物語が持つ人間の心理的倫理的発達への重要性や、この様な教育を継続する事によりどれだけの困難を回避する事が可能であるかについて説明しています。僕はこの主題について更に学びたいと思い、また自分の謙遜的姿勢から、アーティストとしてこの様な内容を求める人々を豊かにすることに貢献しようと決心しました。これら全てが、過去5年間のリサーチと制作のテーマであった『昔々東京で…』のプロジェクトとして実現したのです。

 

三部作の3つの伝説を現代の東京に当てはめるために、どのようなリサーチを行ったのですか?また原作を保持するためには何が大切だと考えましたか?

まず第一に、長い年月の中で検閲されてきた要素を回復するため、それぞれの物語の最古の文献を探し、それらを異なる場所や時期のものと比較しました。キャンベルの著作にある様に、僕はそこに共通の特性を見つけ、それらを残すことに関心を持つようになりました。それらが普遍的で時を超越した要素であるということは、つまり物語の構造や骨格であるということです。そして次に、それらの表象を意味を変えずに現代の東京に置き換えて語るにはどうすればよいかを考え始めました。この様にして、物語の教訓を表面に浮上させて人々により明白に伝わることを期待して、私たちが聞き慣れた21世紀の言葉を使いながら、読者を物語の再読に招待しています。

 

これら3つの物語は、現代人に何を伝えているのでしょうか?

人間は二度生まれます。第一の誕生は肉体的、外的なものであり、私たち全てに共通するものです。第二は内的誕生で、任意的で獲得されるべきものです。ただ便宜的に、残存するために生きるのでは何にもなりません。二度目に誕生することにより、人間は物事の本質を外観を超えて見いだしながら、回りの世界をよりよく理解し始めるのです。

 

ブラジル、日本、ヨーロッパの物語を選んでいますね。これはあなたの多文化的な人生に関係していますか?

そうですね、これは様々な文化をまたいできた僕の人生の結果です。僕の第一のゴールは、如何にして異なる時代と場所で生まれた物語が共通の要素をもっているか、そしてそれは物語が全人類にとってとても大切なものであるからなのだ、ということを示していくことです。

 

(アルテルナチーヴァ・マガジン、2012年12月20日、日本にて)

 

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